
塾を移転してから早いものでもう1ヶ月が経とうとしています。
室内も少しずつ片付いてきて、ちょっとずつ普段通りの落ち着きを取り戻してきました。
改めて室内を見渡すと、当塾には学習に使うデジタル機器はほとんどなく、
机と椅子と紙テキストがあるだけの、とってもアナログな景色が広がっていることに気がつきました。これだけデジタル化が進む社会の中で自分たちはなんでこんなにアナログなんだろう。
今日はそんな、松尾塾がアナログであり続ける理由について改めて考えたことを書いてみたいと思います。
アプリや映像配信によるオンラインでの学習ツールが本格的に拡大したのは、
体感的には約10年ほど前だったように思います。
場所や時間を選ばず、自由に多種多様な学習コンテンツを利用できるようになったことで、
生徒さまの学習環境は大きく変化しました。
特に、コロナ禍ではその特性がおおいに発揮され、オンライン学習に助けられたと言う方も
大勢いらっしゃることと思います。自宅で受けられるタイプのコンテンツもあるので、
居住地による学習環境の格差が解消された側面もありますよね。
一方、松尾塾はと言えば、現在でも従来通りの対面式の授業を実施していて、
映像授業などは一切取り入れていません。
オンラインでの授業も行っていて、これまでに九州から受講してくださっていた生徒さまも
いらっしゃいましたが、これも録画などではなくリアルタイムでzoomをつないで授業していたので、
対面授業とほぼ同じやり方でした。
完全1対1の個別を徹底していることや、こうした対面授業にこだわっている理由について
改めて内省してみると、学習というものは一方通行のものではなく、双方向のやりとりを通じて
完成していくものであることを、これまでの塾講師生活の中で体感していたからに思えます。
例えば、授業中に「いまのところわかった?」と生徒さまに訊ねると、
「わかった」と「わからない」の他に、「部分的にわからない」とか、
「どこからわからなくなったかわからない」とか、時には無言や首を傾げるなど、
様々なバリエーションのリアクションが返ってきます。
(※目をきらきら輝かせて『めっちゃわかった!』といってもらえるのは講師生活の中でも
最高の瞬間のひとつと言えます)
言葉だけではなく、声色や表情から読み取れる情報もたくさんあります。
わたしや講師たちは、こうした生徒さまのリアクションを見て瞬時に仮説を立て、次の質問をして、
またその返答をもらい、それを繰り返しながら生徒さまがつまづいた場所を探りつつ、
生徒さまの性格やその日の状態を把握しながら授業を進めていきます。
おそらく生徒さま側も、講師の問いかけや、手を変え品を変え繰り出される様々な説明や例え話から、
自分が共鳴できる要素を探して理解を深めていっているはずです。
そうした時間の積み重ねの中で、その生徒さまごとに理解しやすい説明の仕方や適切な難易設計が
確立されていき、俗にいう”オーダーメイド”な授業が完成されます。
こうした双方向による繊細なやりとりはコミュニケーションにかかるコストが高いとも言えるので、
効率の良いやり方とは言い難いかもしません。
ですが、一人ひとりがまったく異なる人間であるのなら、教え方も異なって然るべきはずです。
私たち講師は自分の経験や既成概念にとらわれず、目の前にいる生徒さまのことをニュートラルな
視点で見られているかを常に自戒する必要があります。
また、当塾では生徒さまやご家庭の希望があれば積極的に進路指導を受け付けていることも、
対面にこだわる理由のひとつです。
進路指導は点数や学校のネームバリューで自動的に振り分けするものではなく、
様々な思いや事情を踏まえながらもっとも”しっくり”くる方向性を探るものです。
その際、生徒さまや保護者さまに私たち講師が信頼していただけていなければ本音を
お話ししていただけませんし、私たち講師も生徒さまごとに異なる多様な背景を把握していなければ
最適なご提案が難しくなります。
もちろん、対面で授業を続けていれば自然と信頼関係が醸成されるという単純なものでは
ありませんが、少なくとも一人ひとりをしっかりと見つめることができなければ信頼関係の構築は
むつかしいと感じます。
このように、教育理念というと少々大袈裟ですが、私たちが大切にしている生徒さまとの関わり方を
日々の仕組の中に落とし込もうとすると、どうしてもアナログな要素が多くなってしまいます。
決して社会の流れに逆向しようとか、逆張りしようということではないのです。
(※実際、保護者さまへの連絡事項等は塾用アプリを導入していたりします)
私たちが大切にしたいあれこれが実現できるとわかったらデジタルデバイスを用いた学習を導入する
こともあるとは思いますが、”便利”や”効率”だけが果たして重要なことなのかを
常に自分たちに問いかけつつ、いつでも講師と生徒さまが対等な人間同士として学習し、
より良い進路に進めるサポートができる環境を模索していきたいと思います。